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最高裁判所第二小法廷 昭和45年(オ)265号 判決 1972年9月08日

上告人 青山光子(仮名) 外二名

被上告人 坂友一(仮名)

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人大滝一雄の上告理由について。

原審の適法に確定したところによれば、昭和一五年一二月二八日訴外坂保之助の死亡により同人所有の本件土地について、遺産相続が開始し、原判示の続柄にある坂勇之助、小村ゆき、上告人青山光子、上告人古川富夫、上告人古川正次の五名が共同相続をしたが、そのうち小村ゆきが昭和一八年二月一日死亡したので、原判示の続柄にある小村さき子、小村みさ子、小村岩造、小村雄一郎、小村作造の五名が同人の遺産相続をしたものであるところ、坂勇之助は保之助死亡当時坂家の戸主であつたので、当時は家督相続制度のもとにあつた関係もあり、家族である保之助の死亡による相続が共同遺産相続であることに想到せず、本件土地は戸主たる自己が単独で相続したものと誤信し、原判示のような方法で自己が単独に所有するものとして占有使用し、その収益はすべて自己の手に収め、地租も自己名義で納入してきたが、昭和三〇年初頃長男である被上告人に本件土地を贈与して引渡し、爾後、被上告人において勇之助同様に単独所有者として占有し、これを使用収益してきた。一方、前記亡小村ゆき、上告人青山光子、上告人古川富夫、上告人古川正次らは、いずれもそれぞれ保之助の遺産相続をした事実を知らず、勇之助および被上告人が右のように本件土地を単独所有者として占有し、使用収益していることについて全く関心を寄せず、異議を述べなかつたというのである。

ところで、右のように、共同相続人の一人が、単独に相続したものと信じて疑わず、相続開始とともに相続財産を現実に占有し、その管理、使用を専行してその収益を独占し、公租公課も自己の名でその負担において納付してきており、これについて他の相続人がなんら関心をもたず、もとより異議を述べた事実もなかつたような場合には、前記相続人はその相続のときから自主占有を取得したものと解するのが相当である。叙上のような次第で勇之助したがつて被上告人は本件土地を自主占有してきたものというべきであり、これと同趣旨の原審の判断は相当である。所論引用の判例は事案を異にし、本件に適切でない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡原昌男 裁判官 色川幸太郎 村上朝一 小川信雄)

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